紙面特集
秋季特別展 日本の素朴絵―ゆるい、かわいい、たのしい美術
龍谷大 龍谷ミュージアム
この思い、純真。
おおらかなタッチの具象画や彫刻。日本では昔から、一流の画工や仏師の名品と並んで、素朴な表現の作品も大切に伝えられてきた。現代の目で見ると何とも愛らしいこれらの美を古代から大正時代まで集め、その魅力に迫る。
一口に「素朴絵」と言っても成り立ちは多様だ。室町時代の「つきしま絵巻」はのどかな絵柄だが、平清盛の港湾造営と、人柱として沈められる人々のドラマを描く。仮にこの絵師にヨーロッパのバロック絵画のような表現ができたら、いかに劇的な作品が―と思うが、この画力だからこそひたむきな思いが強く伝わるとも思える。
他方、大正時代の「雲水托鉢(たくはつ)図」などは「これが受ける」と意識して作られた作品だ。見た目は素朴でかわいいが、デザインとして完成されている。
江戸時代の「大坂城堀の奇獣」は、この生き物の出現を伝える、いわば報道目的の作品だから、描いた人もまさか自分の絵が後世、展覧会で「素朴絵」として紹介されるとは、という感じだろう。
多様な背景を持つものを現代の価値観でひとくくりに「かわいい」と言っていいのか。企画者の1人、龍谷ミュージアムの村松加奈子学芸員は「そこから議論が深まれば」と話す。なぜ描かれたのか。なぜ残ったのか。こうしか描けなかったのか、わざとこう描いたのか。素朴さを愛する日本人の本質にまで思い及ぶこともできる。素朴に見えて深い展覧会だ。
【2019年9月17日付京都新聞朝刊掲載】