ショーン・タンの世界展 どこでもないどこかへ
美術館「えき」KYOTO
心地いい幻想を。
ショーン・タンの長編絵本「アライバル」は全128ページで一切、文字がない。にもかかわらず夢中で「読んで」しまう。表情やしぐさに、登場人物たちが担う物語を読み取ろうとするからだ。
物語の基盤は移民の歴史と思われるが、その経験がなくても気持ちは理解できる。違う世界に来た不安、思いを伝える難しさ。タンは、その悩みは芸術家にも共通すると語っているし、例えば企業内で人事異動を経験した人なども同じだろう。
感情をリアルに伝えるために、タンは現実の言葉を使わず、また移民史を詳細に調べた。作品には、米国に上陸して手続きに並ぶ前世紀の移民の姿や、不景気にほんろうされる庶民を描いたイタリア映画「自転車泥棒」(1948年)を思わせる場面もあり、歴史に取材したこれらの枠組みが幻想的な物語を支える。
2008年の「遠い町から来た話」では、かつて北オーストラリアで真珠産業に従事した日本人をモチーフにした。彼らの眠る墓地から着想したという。タンは絵画やアニメなど日本文化に影響を受けたと語るが、その作品には常に、言葉や文化を超えた部分で通じ合おうとする心が感じられる。
展覧会は、絵本原画や習作、映像や立体など約130作品でタンの生み出す世界を紹介する。
作品はすべて(C)Shaun Tan
【2019年9月20日付京都新聞朝刊掲載】
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