京都新聞
紙面特集

ショーン・タンの世界展
どこでもないどこかへ
美術館「えき」KYOTO


心地いい幻想を。

「アライバル」より 2004~2006年
いたずらがきをするやつ 2011年
「エリック」より 2007年
「ロスト・シング」より 1999年

 ショーン・タンの長編絵本「アライバル」は全128ページで一切、文字がない。にもかかわらず夢中で「読んで」しまう。表情やしぐさに、登場人物たちが担う物語を読み取ろうとするからだ。

 物語の基盤は移民の歴史と思われるが、その経験がなくても気持ちは理解できる。違う世界に来た不安、思いを伝える難しさ。タンは、その悩みは芸術家にも共通すると語っているし、例えば企業内で人事異動を経験した人なども同じだろう。

 感情をリアルに伝えるために、タンは現実の言葉を使わず、また移民史を詳細に調べた。作品には、米国に上陸して手続きに並ぶ前世紀の移民の姿や、不景気にほんろうされる庶民を描いたイタリア映画「自転車泥棒」(1948年)を思わせる場面もあり、歴史に取材したこれらの枠組みが幻想的な物語を支える。

 2008年の「遠い町から来た話」では、かつて北オーストラリアで真珠産業に従事した日本人をモチーフにした。彼らの眠る墓地から着想したという。タンは絵画やアニメなど日本文化に影響を受けたと語るが、その作品には常に、言葉や文化を超えた部分で通じ合おうとする心が感じられる。

 展覧会は、絵本原画や習作、映像や立体など約130作品でタンの生み出す世界を紹介する。

「内なる町から来た話」より 2017年
ミシンのビル 2017年
作品はすべて(C)Shaun Tan
案内
  
■会   期9月21日(土)~10月14日(月・祝)会期中無休
■会   場美術館「えき」KYOTO(京都市下京区、ジェイアール京都伊勢丹7階隣接)
■開 館 時 間午前10時~午後8時(入館は閉館30分前まで)
■主   催美術館「えき」KYOTO、京都新聞
■監   修ショーン・タン、ちひろ美術館
■入 館 料一般900円(700円)、高大生700円(500円)、小中生500円(300円)※かっこ内は障害者手帳提示の人と同伴者1人の料金。
■問い合わせジェイアール京都伊勢丹 075(352)1111(大代表)
■ギャラリー・トーク9月21日(土)午前11時半、午後2時半 岸本佐知子氏(翻訳家)、10月5日(土)午後2時 junaida氏(画家)いずれも各回約30分。申し込み不要。入館券が必要。
Photo:Inari Kiuru
ショーン・タン 1974年、オーストラリア生まれ。イラストレーター、絵本作家。2006年刊行の「アライバル」は23の言語で出版されている。9年をかけて映画化した「ロスト・シング」は11年に米国のアカデミー賞短編アニメーション賞を受賞。同年、アストリッド・リンドグレーン記念文学賞も受賞した。
【2019年9月20日付京都新聞朝刊掲載】