北大路魯山人 古典復興 滋賀県立陶芸の森
古の美 いま一度
研ぎ澄まされた感性でさまざまな焼き物の美をすくい上げ、芸術の新境地を開いた北大路魯山人。その足跡を通し、現代陶芸の礎となった昭和期を展望する特別展「北大路魯山人 古典復興―現代陶芸をひらく」が14日から甲賀市信楽町の滋賀県立陶芸の森陶芸館で開かれる。今年で没後60年を迎えた魯山人の作品を中心に、同時代の作家らの逸品や、中国や朝鮮半島の古典の名品も合わせて紹介する。
京都に生まれ、若くして書や篆刻(てんこく)の分野で活躍した魯山人(1883~1959年)は40歳を前に、「料理の着物」としての作陶に関心を向ける。中国陶磁や朝鮮陶磁、そして日本の素朴な焼き締めから鮮やかな色絵まで多様な産地のエッセンスを融合した創作は、他の陶芸家も触発し、伝統の再評価のうねりを生む。先例に学びつつも先例にとらわれない自由な発想を翼に、昭和初期、日本陶芸は豊穣な進化を遂げた。
本展では、古典復興の先駆者としての魯山人の役割に注目する。古信楽の壺を石膏(せっこう)で型どりして制作した「絵瀬戸草虫文壺」や「伊賀釉檜垣文壺」などは、邪道な手法と批判を受けながらも、過程より結果を重視した精神を鮮明に映す。琳派・尾形乾山の流水と紅葉を組み合わせた意匠を範とした器の数々や、江戸後期の京焼を代表する仁阿弥道八から影響を受けた作品からは、多彩なアレンジを楽しむ遊び心がのぞく。さかのぼって中国・明時代の景徳鎮窯の「古染付葡萄(ぶどう)文水指」と、それを手本に魯山人が作った「染付葡萄文鉢」を比べ見ると、古(いにしえ)の美を吸収する姿勢の源流がうかがえる。
希代の美食家と目された魯山人が、新たな器の形として世に出した板皿の代表作「織部間道文俎(まないた)鉢」など、存在感が際立つ食器類も見逃せない。
このほか川喜田半泥子や石黒宗麿、荒川豊藏など同時代の作家たちが織部、志野など桃山陶への憧れを込めて作った品々、魯山人と親交のあったイサム・ノグチや若き日の八木一夫らの作品も並び、古陶磁を足場にして築かれた20世紀の陶芸の一端も浮かび上がる。