京都新聞
紙面特集

住友財団修復助成30年記念 特別展 文化財よ、永遠に
泉屋博古館

大日如来坐像 平安時代 12世紀 浄瑠璃寺蔵

古都 再現の技

 住友財団(東京都)が文化財の修復事業に助成を始めて近く30年になるのを記念した特別展「文化財よ、永遠に」が6日、京都市左京区の泉屋博古館で始まる。鎌倉時代の歌人・藤原定家の日記「明月記」や浄瑠璃寺(木津川市)の「大日如来坐像(ざぞう)」など助成した中から、京都府を中心に国宝2件や重要文化財10件を含む30件を現在の修復技術とともに紹介する。

 住友財団は1991年の設立で、助成事業は国内外で延べ千件近くになる。文化財保存修復の現状や意義を広く知ってもらうために特別展が企画された。

 明月記(国宝、全58巻)は冷泉家時雨亭文庫(京都市上京区)が所蔵し、大きさや質も異なる紙をつなぎ合わせて1巻当たりの長さは平均約15メートルにもなる。作業の難しさや量の多さから二つの工房が共同で87年度から12年をかけて修理し、以後の文書修理の方法や考え方が確立された。日記は不要になった書簡などの裏が使われていたため、裏打ち紙で隠れていた膨大な書簡の全容が明らかになり、中世史研究に大きく寄与した。特別展では前後期各2巻を展示する。

 浄瑠璃寺の大日如来坐像は後世に施された漆や金箔(きんぱく)で全体が覆われていたが、修理で除去されると、顔の彫りの強弱や衣服のひだの流れの優雅さがよみがえった。その端正な姿から平安時代後期の慶派の仏師が手掛けた可能性が高まった。

 建仁寺の塔頭・霊源院(東山区)の「中巌円月(ちゅうがんえんげつ)坐像」(重文)は南北朝時代の作。修理の際に像内から鎌倉時代の毘沙門天(びしゃもんてん)立像が見つかった。養源院(東山区)の「唐獅子(からじし)図」(京都市指定文化財)は狩野山楽の手による。客殿中央の仏壇に6メートルにわたり飾られ、6頭の獅子が描かれている。修理後に寺院以外で初公開される。また会場には修復の技術や材料などを紹介するコーナーも設けられる。


狩野山楽「唐獅子図」(上から東側、中央、西側)  江戸時代 元和7(1621)年ごろ 養源院蔵
藤原定家「明月記」(巻47) 鎌倉時代12~13世紀 冷泉家時雨亭文庫蔵 ※展示は9月23日まで
毘沙門天立像 鎌倉時代 13世紀 霊源院蔵
中巌円月坐像 南北朝時代 14世紀  霊源院蔵
案内
■会   期9月6日(金)~10月14日(月・祝) ※月曜(9月16、23日、10月14日除く)、9月17、24日は休館
■会   場泉屋博古館(京都市左京区鹿ケ谷下宮ノ前町24)
■開 館 時 間午前10時~午後5時(入館は午後4時半まで)
■主   催泉屋博古館、住友財団、住友グループ各社、京都新聞、読売新聞社
■入 場 料一般600円、高校・大学生400円、中学生以下無料 ※20人以上は団体割引20%、障害者手帳提示で無料
■関連イベント (いずれも入館料で参加可)
〈講演会〉「木の文化財を救う-木の埴輪(はにわ)から元寇の沈没船の保存まで」9月16日午後1時半~3時、講師は今津節生・奈良大文学部長・教授(文化財保存科学)▽「仏像の文化財修理」9月28日午後1時半~2時半、講師は隂山修・美術院国宝修理所長 ※会場は館内の講堂、定員100人、当日午前10時から整理券配布
〈ワークショップ〉 彫刻修理「仏像修復、基本の木」9月21日午前10時半、午後2時(いずれも1時間程度)、講師は美術院国宝修理所、対象は小学4年生以上、定員各20人▽「絵画修理トーク&ワーク」10月5日、講師は国宝修理装潢(そうこう)師連盟。「装こう師-国宝のお医者さんにかけ軸の修理を学ぼう」午前10時半~正午、対象は小学4年生~中学生、定員12人。「装潢師のお仕事-国宝絵画の修理現場から」午後2~4時、対象は高校生以上、定員12人 ※会場は講堂、要予約(9月6日午前9時から電話で受け付け)
〈列品解説〉 9月15、29日、10月9日午後2時から学芸員が展示室で実施
■問い合わせ泉屋博古館075(771)6411
【2019年9月4日付京都新聞朝刊掲載】