わびさびの粋、追う
古備前から現代作家の作品までを一堂に展覧し、備前焼の魅力に迫るMIHO MUSEUM(甲賀市)の秋季特別展「The 備前―土と炎から生まれる造形美―」が14日に開幕する。
岡山県備前市の伊部地域を中心に作られている備前焼は、釉薬を一切使わないのが特徴だ。土と炎による「焼き締め」で生みだされる素朴な味わいや簡素な風合いは古来、日本人に愛され、中でも「わびさび」を大切にする茶人に好まれた。「窯変(ようへん)」をはじめ「緋襷(ひだすき)」「牡丹餅(ぼたもち)」「胡麻(ごま)」「桟切(さんぎり)」など窯の中で生じた器表のさまざまな景色は他の焼き物にない魅力といえる。
桃山-現代、160点から見る潮流
同展では、桃山時代に茶人・数奇者の間で栄えた古備前の名品から、その古備前に魅せられ作陶に取り組んだ近代の巨匠作家、さらに先達から受け継いだ技術を生かして現代の備前を確立しようとする若手の作品までを幅広く紹介する。
展示品は計約160件。古備前の名品で知られる徳利「トシワスレ」は重量感・景色とも見どころたっぷり。茶碗「只今」をはじめ茶道具や花入、水指、陶板と呼ばれる窯道具など過去にあまり人目に触れることが少なかった優品が含まれる。
備前焼はこれまで重要無形文化財保持者(人間国宝)を5人輩出していることも見逃せない。「備前焼中興の祖」金重陶陽と藤原啓の両雄から近代作家6人の逸品を陳列。彼らに続く精鋭も目白押しで現人間国宝の伊勢﨑淳氏ら現代陶芸家9人の作品が並ぶ。
伝統的な茶陶や細工物、食器・生活雑器から独創的な造形まで釉薬も色絵もない土肌の表情は実に豊かだ。千年以上前の須恵器に始まる日用の美は今も備前焼に受け継がれていることが分かる。
「The 備前」は今年2月から東京会場で開幕し、来年9月まで1年半をかけて歴史ある6窯業地を巡る全7会場の巡回展。滋賀・信楽会場は4会場目でMIHO MUSEUM所蔵の備前焼15件も特別展示する。
担当の畑中章良学芸部長は「通史的に備前焼の潮流を見ていただける絶好の機会。古備前には古いものの良さがあり、それに近づこうと試行錯誤を続ける現代作家の奮闘ぶりも感じていただければ」と話す。